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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和28年(う)596号 判決

本件は、「被告人が昭和二六年六月初頃、法定の除外事由がないのに、鹿児島県大島郡十島村悪石島二二番地の自宅で、ダイナマイト一本を所持した。」という事実を、行為時法によれば琉球諸島軍政府特別布告第三二号二、二、五に、裁判時法によれば我が国の火薬類取締法第五九条第二号第二一条に該当し、刑法第六条により軽い右火薬類取締法の規定を以て処断すべきものとして、昭和二七年五月三一日鹿児島簡易裁判所に起訴(次いで鹿児島地方裁判所に移送)せられたものであることは、起訴状、原審第六回公判調書、起訴状訂正請求書、罪名及び罰条変更請求書の記載によつて明らかである。

ところで、右鹿児島県大島郡十島村は、北緯二九度ないし三〇度の間に位していて、昭和二一年一月二九日附連合国最高司令官の日本国政府宛「若干の外かく地域の日本からの政治上及び行政上の分離」に関する覚書第三項によつて、日本の範囲から除外される地域として指定せられ、昭和二六年一二月五日附連合国最高司令官の日本国政府宛同件名の覚書によつて再び日本の範囲に含まれることとなつたのであるから、本件は右十島村の還付前同地域において琉球諸島軍政府の刑罰法規に違反して敢行され、しかも、行為時に我が国内刑罰法規の適用のない事犯を、右還付後、我が国の裁判所に起訴したものである。

思うに、右地域の還付前、同地域にあつては、琉球諸島軍政府の法令が適用せられ、専ら右軍政府の裁判機関によつて裁判権が行われていたのであるから、右軍政府の法令は我が国の裁判所を拘束することなく、我が国の刑事裁判権は右軍政府の刑罰法規違反の事犯に及ばなかつたのは勿論である。換言すれば、右地域は司法上においてもいわゆる準外国として取り扱われていたのである。従つて、右地域の還付前、右軍政府の刑罰法規に違反した本件所為に対し、還付後、当然に我が国の刑事裁判権が及ぶ理由はなく、これを及ぼすためには特別の国内法規を必要とするのである。

所論は、右と同一の前提の下に、昭和二六年一二月二一日政令第三八〇号第一項前段、即ち「鹿児島県大島郡十島村の区域で北緯二九度から北緯三〇度までの間にあるもの(口之島を含む)については、他の法令の規定にかかわらず、当分の間、政令で特別の定をするものを除く外、従前その区域に適用されていた法令のみをなお適用するものとする。」との規定を以て、まさに右裁判権を認めた規定であるというのである。この規定が、右地域の還付と同時に琉球諸島軍政府の法令に代ゆるに我が内地の法令を以てするときは、その間に混乱の生ずることを慮り、これに対処する趣旨に出ずるものであることは、まことに所論のとおりで、この規定により右地域においては、右還付後も引続き、原則として、従前右地域に行われていた法令のみが適用されることとなつたのである。しかし、この規定を以て、右還付前の軍政府の刑罰法規違反の所為に対し、我が国の裁判所に裁判権のあることを認めたものと即断することはできない。

控訴趣意書に述べるように、琉球諸島軍政府特別布告第三二号一、一、二の規定を、右政府成立前における日本の刑罰法規に違反する犯罪は同政府の裁判所において処罰し得る旨定めたものと解すべきものとしても、又、昭和二八年一二月二五条約第三三号(奄美群島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定)第六条本文に「日本国は奄美群島にいる者で、一九五三年一二月二五日前に南西諸島におけるいずれかの裁判所が科した刑に服役中のもの、又は一九五三年一二月二五日に前記の裁判所若しくは沖繩における琉球上訴裁判所に事件が係属中のものに対して、日本国の法令及び手続に従つて刑事裁判権を行使することができる。」との規定について考えても、これらの規定は一定の制限内において外国の刑罰法規によつて生じた効果を認め、若しくは認め得ることを定め、これに対し内国の刑事裁判権を及ぼし、若しくは及ぼし得ることを規定したものというべきである。しかし、右政令の規定がこれと全く趣を異にすることは、両者の内容を比較検討することによつてまことに明瞭である。即ち、右昭和二六年政令第三八〇号第一項前段の規定は、単に、還付を受けた所定の地域の法令の適用に関し、還付後将来に向つて、同地域に、如何なる法令を適用するかを定めたもので、軍政府の刑罰法規によつて既に発生した効果を認め、これに対し、我が国刑事裁判権の及ぶべきことを規定したものではない。しかして、右政令の規定によつて適用されることとなつた従前の法令は我が国内法たる右政令の規定の内容をなすものと解すべきであるが、所論の如く、これを外国法として適用する趣旨と解するとしても、右政令がその適用の日即ち右地域還付の日以後の法令の適用のみに関する規定である以上、この規定から直ちに、それ以前の犯罪に対し、我が国に裁判権のあることを認めたものとの結論を導くことはできない。従つて、被告人の本件所為が行為時並びに裁判時において如何なる刑罰法規に該当するかを論ずるまでもなく、我が国の裁判権は右地域還付前の本件事犯に及ばないものと解するの外ないのである。所論は結局、裁判権の有無の問題と、法令の適用の問題とを混同することから生じた誤つた見界で、到底賛同できない。

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